小林信彦三昧
最近、小林信彦にはまってます。
この人の本はほとんどハズレがないんだけど、これは面白かった。
「天才伝説 横山やすし」(1998)
である。
この作家は「実際に目にしたものだけを描く」というのがモットーで、一見するとよそよそしすぎるくらいクールな筆致なんだが、一定の距離をおきながらも親しく付き合った人の強みで、生臭さと共に彼の内面の脆さをしっかりと描けている。
とくにあの「仁義なき戦い」の笠原和夫と小林が、やすしの主演映画のアイデアを語り合うシーンなどは、「やすしを映画スターとして成功させてあげられていたら…」という彼らの思いと共に、いつまでも胸に残ることだろう。
小林さんの本の面白さはただの人物評伝に終わらない、同時代を生きた人間たちを実に生き生きと描き出している点にあり、この本でもやすしの後ろから勃興していく新人のお笑い芸人たちの姿が活写されるているのがいい。
なかでも毎日放送の本番中に、島田紳助と交わした言葉が最高だ。
「漫才ブームが終わって、誰が生き残れますか?」
とぼくに訊いた。
「東京でビートたけし、大阪であなた」
ぼくは答えた。
「他の人は?」
「遠からず消えるでしょう」
ぶっきらぼうな返事に、紳助はよろけて見せた。(P71)
紳助が暴力事件を起こした直前の「松本紳助」(日本テレビ系)で、やたらと「おれたちは偉人の生まれ変わりだ」って彼が騒いでたことを思うと、けっこう意味深なエピソードだということが理解できるだろう。
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